中小企業の新規事業部門が上手くいかない理由と処方箋

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「御社の成長戦略は何でしょうか?」

経営者の方であれば、よく聞かれる質問ではないでしょうか。私も既存事業の成長鈍化を経営課題と感じ、危機感をお持ちの中小企業経営者の方からご相談を頂く際には、最初にご質問させて頂くことが多いと思います。

傾向としては、本業とシナジーがあると考える新規事業部門を立ち上げているケースや、最近ではM&Aを検討しているケースが多くなってきました。この新規事業部門の立ち上げに際し、成長鈍化の中小企業が陥るケースについて深掘りしてみたいと思います。

 

中小企業の新規事業開発で重視すべきポイント

まず、この「新規事業」という言葉に注目してみてください。何気なく使われているビジネス用語ですが、新たに事業を作る、とあります。自社にとって今までやっていない領域でビジネスをスタートするという意味です。

これは一体、何を意味しているのでしょうか。よくあるのは、自社の既存事業の強みやノウハウを生かすことができそうであったり、何らかのシナジーが見込むことができ、かつ他社がやっている未成熟の市場に自社が新規参入すること。つまり、すでに競合他社が存在するビジネス領域に足を踏み入れるということです。

もちろん経営資源の豊富な大企業であれば、その資金力や既存顧客をはじめとした高い信用力に支えられ、成功するケースはあります。ですがヒトモノカネといった経営資源が限られる中小企業において、他社がやっているビジネス領域に遅れて新規参入するということは、冷静に考えればリスクになりかねません。

もちろん、中小企業経営者の心情としては理解できます。みずほ総研の資料によりますと、中小企業の約6割が新規事業展開に実績ありというデータがあります(「中小企業のリスクマネジメントと信用力向上に関する調査」みずほ総研 H23/3 ※複数回答あり)。なぜ中小企業は新規事業として新規参入するのかといえば、既存事業の成長鈍化が見えてきており、”何か新しいことをしなければ将来不安が増大する”からではないでしょうか。

さらに少し踏み込みますと、経営者として具体的にやりたい次の事業があるわけではないが、”何か新しいことをやっておきたいという漠然とした将来不安”がある場合も多いようです。実際、先日お会いした経営者の方は、まさにこのような”将来不安”を私に吐露されていました。これを私は「目的としての新規事業」と呼んでいます。

この発想は、極めて会社内部の都合(場合によっては”社内政治”)による取り組みと言えないでしょうか。そしてこの内部都合からスタートする新規事業というものは、当たり前のことですが成果を出すことは非常に厳しいわけです。よって私は、過去のキャリアで新規事業を立ち上げ続けた際の成功体験と失敗経験からも、クライアントである経営者の方には必ずこう申し上げています。

「いきなり新規事業を考える部署を立ち上げないでください。ましてや部門名に『新規事業部』などとはつけないでください。こういったプロセスでは、組織に魂が宿りません。まず間違いなく5年後の主力事業は作れないでしょう」

 

新規事業の立ち上げ時に課題になりやすい事例ポイント

こう申し上げますと、経営者の方の中には必ず「当社が創業して以来、作り上げてきた顧客や取引先との信頼関係や、技術力に裏打ちされた既存事業と、十分な事業間シナジーが見込めると考えているので大丈夫です」とおっしゃる方がいます。

ですがよく考えてみてください。そもそも中小企業では新規事業の立ち上げそのものが大変なものです。経営資源、つまり資金も大手に比べて不足気味であり、商品力も乏しく、何よりも強力なビジネスモデルが確立していないからこそ、中小企業なのです。

そういった中小企業の現実を踏まえた上で、改めて既存事業とのシナジーについて考えてみてください。ある程度の市場規模をターゲットにできるほどの事業間シナジーが、経営者が自信を持って言うほど簡単に見込めるものでしょうか?結論としては、厳しいと言わざるを得ません。

実は、既存事業とのシナジーとは、何万人規模の従業員を有し、人材に恵まれているコングロマリットの大企業ですら難しいのです。

一代で10兆円規模の巨大なIT企業グループを作り出したソフトバンクグループの孫正義社長は、かつてグループ会社役員との議論において「事業にシナジーなどない」とおっしゃっていたそうです。

 

孫正義「事業に”シナジー”なんてない」事業ドメインを飛び越える経営論【SP-MN2 #2】

 

少し私なりの解釈で簡単に補足させて頂きます。今、年商50億円の会社で1%(5000万円)くらいの売上アップを図れるシナジーでよければ可能かもしれません。ですが経営者が求める売上アップとはその程度のものではないはずです。

このケースであれば、年商を100億ステージに引き上げてくれる事業を新規事業とよんでいるのではないでしょうか。それくらいの規模の事業は、そもそもシナジーなどで実現することは極めて難しいという意味だと、私は解釈しているのです。

では、どうすればいいのでしょうか。

答えはシンプルです。経営者ご自身はまず、自社がどうありたいのか?をしっかり考えて描くことに注力すべきなのです。これを”ありたい姿”とすれば、その上で社長として、実現手段を考えるわけです。この”ありたい姿”が、世の中の課題解決に繋がっているようであれば、その社長の構想する実現手段は、新たな市場を創造することに繋がります。それはなぜか?

それは、これまで誰もその実現手段を実現してこなかったからこそ、現在、その課題が社会において顕在化しているからです。私はコンサルティングの中で経営者や社長の仕事をいくつか定義づけていますが、その一つに、社会のふとした課題や問題を見逃すことなく捕まえて、それを解決するための実現手段を構想することを重要視しています。

以上を、私は”市場創造”と呼んでいます。要は新規事業を立ち上げるという内部視点ではなく、自社の”ありたい姿”実現のために時代背景や世の中の現状をしっかりと洞察し、ちょっとした課題や問題の解決手段を構想することが、結果として誰も取り組んでいなかったフロンティアでもある新市場を創造することに繋がるわけです。

そしてこれらのプロセスには、実は型があります。しっかりとしたプロセスで着実に実行すれば、実は新市場の創造による事業拡大は難しいことはないのです。ですがそのことを真剣に学び、型通りに実行する経営者は意外と少ない。そこに、中小企業の新規事業が上手くいかない理由があるわけであるのだと思います。

 

大塚家具に学ぶ新規事業の失敗事例

来年、創業50周年を迎えるという家具・インテリア販売の老舗である大塚家具が、業績低迷に陥っています。3年前に実父とのプロキシーファイト(委任状争奪合戦)に勝利し、経営権を奪い取った現社長・大塚久美子氏の経営体制は、失礼ながら新規事業の失敗のお手本といえます。

創業者である父・大塚勝久氏の時代のビジネスモデルは、会員制による顧客一人一人に対するソリューション型の接客手法が信頼を高めてきました。その結果、それが結婚など、人生の一大イベントという特殊な高額出費の際の選択肢としてブランドとなり、高価格販売を可能としていたのです。

ですが、親子での骨肉の争いを制したとはいえ、そのプロセスによって過去の信頼を著しく損ないました。その上で、すでにニトリやIKEAといった低価格帯のラインナップで成功している大手に対し、格好から勝負を挑みました。

おそらく50年の歴史で培った優良顧客基盤を低価格帯でも活用しようと考えたのでしょうが、そのような浅はかな経営戦略で勝てるほどこの業界は甘くありません。高価格帯と低価格帯では、そもそも顧客のペルソナからして違うほか、商品企画開発、マーケティング、プロモーション、営業戦略、さらには立地から仕入れ方法まで、あらゆる経営執行上の取り組みが異なるわけです。

それらをうまく過去の資産を活用し、安易な発想で事業間シナジーを狙った点に、経営者としての取り返しのつかない甘さがあったと言わざるを得ません。所詮は机上の空論、経営の現場感覚を持ち合わせていない経営者の発想です。

 

ライザップに学ぶ新規事業の成功事例

一方、ここ数年、急成長しているライザップ。もちろん、この会社を知らない経営者の方はいないかと思います。ご承知の通り、人がやろうと決意してもなかなか持続できない”ダイエット”という領域において、ダイエットのメカニズムに筋トレと栄養学の要素を取り入れ、期間を決めて取り組むプログラムが好評です。

このライザップがテレビCMなどで必ず流している「結果にコミットする」というコピー。お気づきかと思いますが、これは非常に絶妙な”市場創造”のキーメッセージです。

「結果にコミットする」とは、別にダイエットに特化したコピーではありません。ですが、なかなか結果が出ない個人的なコンプレックスを解消したいというニーズを共通して捕まえた表現なのです。

だからこそライザップは、ダイエット以外に英会話やゴルフなどに展開しています。別に事業間シナジーを期待しているのではなく、ライザップの企業哲学とビジネスモデルを正しく横展開しているだけなのです。

要は、新規事業を立ち上げるという内部視点ではなく、自社の”ありたい姿”実現のために時代背景や世の中の現状をしっかりと洞察し、ちょっとした課題や問題の解決手段を構想することが、結果として誰も取り組んでいなかったフロンティアでもある新市場を創造することに繋がるわけです。

 

貴社は、目的地の見えない場当たり的な新規事業を立ち上げていませんか?